どこにもたどりつかない。 甘い疼き 忍者ブログ
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電灯的。のあまみやさんへの捧げ物。
キラーがペンギンに告白するお話です。


「物事を声にだして口にするという行為は、実は大事なことなんだぜ?」

ハートの海賊団の海賊船内にある談話室で、不意に目の前の男がそう呟いた。
仮面の下に隠れた視線を上げたキラーは、ガラステーブルを間に挟んだ向かい側のソファに座った男を捕らえる。
この船の主であり、恋人がこの世で最も敬愛する男だ。
ついでに言えばキラーが常に共に立つと誓った男と恋仲でもある。
正直言えば気に入らない。
キラーがこの世で最も愛する二人に、この男は我が物顔で触れているのだ。
本来ならば声すら聞きたくないほどだったが、彼の心情を悪くして得になることも何一つないため、キラーは強制的に会話に参加せざるを得なかった。

「それがどうした。」

実にぶっきらぼうな返答に、男はくつくつと笑う。
キラーの反応を楽しんでいるようだ。

「言葉にしても意味のないこともある、なんて思ってんじゃねぇか?キラー屋」
「・・・そうかもな」
「それはある意味で正しいが、でもそうじゃない時もある」
「・・・・・・要領を得んな。」
「例えば・・・今キラー屋が持っているものはなんだ?」
「・・・・・・・・・ただの本だ。」

正確に言うならば「これでも読んで待っててくれ」と恋人に渡された、さして興味もない推理小説だ。
あまりこういったジャンルのものは読まないため、どこが面白いのかイマイチわからないが、彼からすれば興味をそそられるものがあるのだろうと読み進めていたものでもある。

「その本を目で見て、手で触れ、ページをめくる音で、キラー屋はそれを“本”と認識する。そこにあるのが“本”だとちゃんと頭で理解してるからだ」

刺青だらけの腕を振り仰ぎながら語る男はじつに楽しそうだ。
対照的に、キラーは答えるのも面倒だと思い始め、脱力した背をソファにあずけ、本を閉じた。

「でももし、キラー屋が『ここに本なんてない』と本気で言葉にすれば、本は本でなくなるんだよ」
「・・・?」

思いがけない言葉に微かに首を捻ったキラーに、男は血色の悪い顔に満面の笑みを浮かべる。

「頭の中で認識したものを言葉にすることで、現実に形にすることができるんだよ。催眠状態にある人間に『お前の手の上にパンがある』と言えば、そいつはパンがあるように見えて、実際にそれに触れているように感じて、食べる仕草までして味覚までもを騙すことができるんだ」
「妄想で腹は膨れないだろ」
「栄養は摂取できなくても、満腹感は得られる。なにせ脳がその言葉を信じて、『自分はパンを食べた』と信じきっているからな」
「・・・・・・で、お前は俺にその話をして、どうしたいんだ?」

男が言いたいことはなんとなくわかってきたが、それを話す意図がわからずにいると、男はキラーにむかって、すいっと細い右腕をのばし、人差し指でキラーの胸を指差した。

「逆を言えば、ないはずのものをあると認識させるのも、言葉にすれば簡単にできるってことだ」
「・・・だから、それがどうした?」
「はぁ・・・鈍いってもんじゃねぇな。やっぱ似たもの同士だなお前ら。」

お前ら、と自分とひとくくりにされたであろう、相手のことが頭によぎる。
はやく仕事を終えてくれないか。はやくここに来てくれないか。はやく触れたい。抱き締めたい。そして・・・

「だから、目に見えないもんでも、口にするだけでそれが存在することになるんだよ」

男の言葉に思考が遮断される。
外していた視線を男に戻せば、今度は皮肉げな笑みを浮かべていた。

「だからちゃんと伝えてやってくれ」

そう言って男は立ち上がり、傍らに置いていた刀を手に談話室を後にした。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

キラーは、その言葉の意味を音の無くなった談話室で考える。
目に見えないもの。存在してほしいと願うもの。伝えるべき言葉。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・余計なお世話だっ!」

たっぷり時間をかけて意味を理解したキラーは、思わずそう叫んだ。
その瞬間、タイミングの悪いことに談話室の扉が開き、意中の相手が現れた。
「なに叫んでんだ?」と首をかしげられるが、キラーは「なんでもない」とごまかす他なかった。
キラーはちらりと恋人の顔を見る。
恋仲になっただけでも奇跡だといえるほど、他人に対してガードの固いこの男に、自分の思いを伝えるなんてことはキラーにはできなかった。

通常の恋人達が思うような、『ずっといっしょにいたい』『はなれたくない』『いつも自分を思ってほしい』といったような言葉は、自分達の間には必要がないと思っていた。
それでなくとも体裁や常識に囚われるこの恋人は、未だに別れの時には黙って涙するというのに、これ以上彼を苦しめることなど自分にはできない、とキラーは思っていた。

「ローとなに話してたんだ?」
「・・・・・・別に何も。」
「廊下でローとすれ違った時、楽しそうな顔してたからな。どうせお前、ローにからかわれてたんだろう?」

屈託なく笑いながら隣に腰掛ける男を見ていると、それだけで胸が熱くなってくる。
それでも頭の片隅では、もっともっとと、何かをせがむような声が聞こえるのも確かで・・・

「なぁ、ペンギン」
「ん?」

たとえそれで彼を傷つけることになっても、

それ以上に彼も、あるはずのない何かを求めているのだとすれば・・・


「愛してるぞ」


消えない傷の疼きも、甘いものになるかもしれない。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
電灯的。のあまみやさんへ!相互記念キラペン小説でした。
キラペンなのにローが出張ってるとはこれいかに?www
その後の展開はご想像にお任せします(笑)

『ペンギンに告白するキラー』という素敵御題をいただいた結果がこのクサい小説です。
某魔法陣的漫画の風の精霊に「くっさぁぁぁ~!!」と言われそうなくらいクサい内容ですね。もうごめんなさいとしか言えませんorzあとペンギンごめん。出番少なくて・・・
あまみや様!こんなものでよければ貰ってやってくださいませ!><
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